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都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム  
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都心の小さな土地に家を建てて住む、「狭小住宅」が静かなブームになっている。建築家の黒崎敏は30代半ばにして、熱いスピリットと優れたアイデアで、この分野のトップランナーに躍り出た。これは、建築家と建て主が理想の都市住宅づくりを目指す「クリエーティブな冒険」の物語だ。

 
文/黒崎敏 狭小住宅論 一般建築論

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「MINI」
5.7坪の極小住宅


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再び若い建て主とともに

 「敷地面積は10坪を満たしていません。予算も限られています。おまけに、袋小路という厳しい条件です。これで設計していただけますか?」

 電話口でそう話すのは、某大手電子機器メーカーに勤務する独身女性。小さなころから両親と一緒に暮らしてきた木造住宅は、すでに築30年が経過していました。
 自宅の建て替えを決意したのは、建て主であるこの女性が大学院を卒業し、社会に出て3年目、若干27歳の時でした。建て主の若年化が進行してきていることを実感します。

 古い木造家屋が密集して建ち並ぶ敷地周辺は、かつて工業が盛んであった面影をわずかに残す東京の下町です。
 近年頻発する地震や火災などの災害対策として、この近辺は木造3階建て住宅への建て替えができない地域に指定されました。住宅の非木造化が進むにつれ、東京の街並みは急速に変化を遂げています。

 「傷みも激しく、建て替えは以前から考えていました」
 そう話す建て主に、古家に対する名残惜しさはあまり感じません。むしろ、これまでの感謝の気持ちに加え、新居への新たな期待に満ちあふれているようです。
 しかし、土地は10坪を満たしていません。果たしてこの場所に、望み通りの家が建築できるのでしょうか。

 準工業地域内にある敷地は高さこそ3階まで建築可能ですが、建て坪は建ぺい率から、わずか6坪程度に制限されます。6坪とはすなわち12畳ですから、「家」というより、むしろ「部屋」を建てる、というべきかもしれません。

 敷地状況を見る限り、設計が一筋縄ではいかないことは容易に想像できました。間違いなく、施工も困難を極めることでしょう。普通は躊躇(ちゅうちょ)してしまうところですが、私も簡単に引き下がるわけにはいきません。

 都市部の建て替えのケースで新しい指針を示すことができないだろうか。常日ごろ、そう考えていた私は、今回のような難しい与条件を良い機会と前向きにとらえ、思い切って設計を引き受けることにしました。
 この決断を聞いた建て主は、「黒崎さんに賭けてみたい」と話してくれました。挑戦を続ける建築家として、これ以上勇気の出る言葉はありません。建物が出来上がるまで姿形が分からない建築計画では、互いの信頼関係こそが何より重要であり、設計の原動力になります。
 これ以上ない力強い後押しを受けた私は、湧き上がる闘志をそっと胸に秘め、これまで以上にハードルの高いこの「超極小住宅」の設計に取り掛かったのでした。
シンプルな黒のガルバリウム鋼板の外壁と大きな開口部が、外観のコントラストを表現している

3階は建て主のプライベートスペース。1坪テラスとファサードサッシからは十分な光が差し込む

この建物の中心にある象徴的なストリップ階段。狭いからこそ機能性と意匠性の両方が要求される

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