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都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム  
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都心の小さな土地に家を建てて住む、「狭小住宅」が静かなブームになっている。建築家の黒崎敏は30代半ばにして、熱いスピリットと優れたアイデアで、この分野のトップランナーに躍り出た。これは、建築家と建て主が理想の都市住宅づくりを目指す「クリエーティブな冒険」の物語だ。

 
文/黒崎敏 狭小住宅論 一般建築論

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「F」
姉妹が目指す小さな家


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4年越しの土地探し

 狭小住宅の住み手は、一般住宅に比べて多岐にわたる傾向があります。
 DINKSやカップルはもちろん、独身者、兄弟、友人、仕事や趣味の仲間など、これまで住宅ではあまり見かけなかった新しいタイプの“家族構成”も少なくありません。
 個性的な住み方が見事に成立してしまう懐の深さは、狭小住宅の魅力の一つであるといえるでしょう。

 今回の建て主は、京都で生まれ育った若い姉妹です。
 子供のころから陸上競技の選手として活躍してきたお姉さんは、実業団時代には五輪日本代表として、4位入賞という輝かしい記録を打ち立てます。
 さらに4年後の五輪に連続出場を果たし、選手生活をまっとうした後、大学の陸上部で後輩の指導に当たりながら、第2の人生を模索していました。

 そんな折、9歳年下の妹さんが留学先のニュージーランドから帰国します。彼女は、現地で味わった一杯のエスプレッソの味が忘れられず、帰国後、自分でカフェを開業したいと真剣に考えていました。
 実は、妹さんだけではなく、お姉さんも大のエスプレッソ好き。若さとやる気のある妹さんから、開店計画の誘いを受けるや否や、迷うことなく一緒に始めることを決意したそうです。

 「開店にあたって、賃借ではなく新築を選択したのは、自分たちのオリジナルの空間が欲しかったから」
 そう話す2人は、早速地元を中心に土地を探し始めましたが、自分たちのイメージに合う土地はなかなか現れません。探し始めて3年が経過した時、2人は思い切って、地元から関東にエリアをシフトしたのです。
 そして、以前から気に入っていた横浜を中心に、自分の足で感覚を確かめながら、地道に探すこと1年。立ち寄った駅の数がちょうど50を超えたころ、運命の敷地に出合い、一目ぼれしたというわけです。

白とグレーに塗り分けられた外観の色は、時刻によって微妙な変化を繰り返す

正面、道路から見るファサードは、小ぶりだがシンメトリックで端正なデザイン

1階店舗正面にはカフェカウンターと厨房(ちゅうぼう)スペース。左手は客席となる予定


 第一印象や直感というのは、積み重ねられた経験や価値観が無意識に顕在化することでもあります。
自分の足で歩き回った4年の経験は、2人が望む空間の輪郭を徐々に浮かび上がらせ、運命の出合いを確実に引き寄せたといえるのではないでしょうか。

 まさに、オリンピックのような「4年越し」の土地探し。新築の資格を得た2人は、いよいよ建築に向け動き出しました。


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