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都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム  
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都心の小さな土地に家を建てて住む、「狭小住宅」が静かなブームになっている。建築家の黒崎敏は30代半ばにして、熱いスピリットと優れたアイデアで、この分野のトップランナーに躍り出た。これは、建築家と建て主が理想の都市住宅づくりを目指す「クリエーティブな冒険」の物語だ。

 
文/黒崎敏 狭小住宅論 一般建築論

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「DINO」
愛車と暮らす小さな家


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ふたりの家

 「家を買うのではなく、つくりたい」

 そう考える人々が最近増えてきたように感じます。
 安全で快適なマンションでは満足できない彼らは、自分の思想で、自分の空間をつくることに、強いこだわりを見せます。
 決して広さや豪華さを求めているわけではありません。自分たちの「生活」を反映させる適度な器を求めているのです。

 確かに、空間が自分らしくなることは、それだけで喜びであり、その過程を家族やパートナーと共有できるのなら、それ以上うれしいことはありません。
 このような個性的な家づくりを目指す建て主が、どういうわけか「狭小住宅」を求める傾向が強くなってきました。今回ご紹介する建て主もその1人です。

 自動車関連の広告デザインを手掛けるご主人は、自他ともに認めるカーマニア。愛車は深紅のフェラーリDINO308GT4という大変珍しいヴィンテージカーです。
 車のほかにも、ハーレーダビッドソンを乗りこなし、休日には自前のボートでバスフィッシングへと出かけるアウトドア派です。
 一方、図書館勤務の奥様はピアノが趣味。新居ではできるだけ音を気にせず、自由に演奏できることを望んでいました。また、ガーデニングにも興味があり、玄関のシンボルツリーなどにもこだわりました。

 「建築家、ル・コルビュジェが提唱するモダニズム空間に、自らの生活を重ね合わせるようになりました」
 以前からアートやデザインに造詣の深かったご主人は、確信を持った表情で、そのように話します。

 求めているのは決して豪勢な部屋ではなく、各々の趣味が実現でき、安全に、楽しく生活できるシンプルな空間であり、生活の変化に応じてフレキシブルに対応できる、「頑丈なコンクリートの箱」ということでした。

 2人のこだわりは建物だけにとどまりません。
 新居のために2人が新たに購入した土地は、都心部でありながらも緑が残る練馬区の住宅街でした。
 この辺りは決してブランド性の高い土地ではありませんが、都心へのアクセスが便利な割に、土地も比較的購入しやすく、建築家による「オーダーメード住宅」を目指す人々にとっては、まさに「穴場」と呼べるエリアです。

 空間志向の強い2人は、建築に重点を置くためにブラント地を避け、あえてコストパフォーマンスの高いこの土地を選びました。
 自分たちの個性的な生活を空間に反映させるためには、土地取得費用を抑え、建物に重点を置くことが必要不可欠であることに、最初から気が付いていたのでしょう。
 この身の丈に合ったバランスこそが、狭小住宅のオーナーに共通する「センス」なのです。

コンクリートと杏(あんず)の木の対比。愛車フェラーリの赤い鼻先がアクセントになる

外観は、建て主たっての要望でもあるコンクリートのマッシブな箱と大きな開口部

室内から南側開口部を眺める。切り取られた象徴的な開口部から入る光もまた象徴的である


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