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都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム  
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都心の小さな土地に家を建てて住む、「狭小住宅」が静かなブームになっている。建築家の黒崎敏は30代半ばにして、熱いスピリットと優れたアイデアで、この分野のトップランナーに躍り出た。これは、建築家と建て主が理想の都市住宅づくりを目指す「クリエーティブな冒険」の物語だ。

 
文/黒崎敏 狭小住宅論 一般建築論

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「狭小住宅のつくりかた」


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自分なりの都市の地図をつくる

 「都市住宅を手に入れたい」と思う人が、まず初めにやらなければならないこと。
 それは、漠然とし、全貌(ぜんぼう)が見えない「都市」を、自分なりに把握すること、ではないでしょうか。

 「狭小住宅」といえば、建築の大小だけに目が行きがちですが、決してそれだけがテーマではありません。
 空間スケールも大切な要素ですが、どのような距離感を保ちながら都市と付き合うかを自らが認識し、永く暮らす場所を決意することの方が、むしろ重要なのです。

 偉そうに都市を語っている私も、東京出身者ではありません。しかし、非東京人だからこそ、都市に身を置いたときに、先入観を持たず、第三者的な立場で、「東京」を冷静にとらえることができるのかもしれません。
 「狭小住宅」も同様で、「都市」に身を置きながら、その小さな空間を客観的にとらえられたときに、普段は感じることができない意外な側面が見えてくるのです。

 そもそも、「都市」と「住宅」には、どのような関係が存在するのでしょうか。
 私も、「東京」を自分の仕事場にすると決意した時から、建築に加え、その舞台となる都市を、客観的に観察する日々が始まりました。
 未知のエリアを体感したいと思い、東京を散策するものの、やみくもに歩くだけでは、到底、大局を把握することはできません。
 東京の輪郭を知りたい欲望とは裏腹に、漠然とした東京像が頭の中を埋め尽くすだけでした。
 
 そんな時、友人から教わった「フィールドワーク」との出合いが、私と東京の距離を縮め、都市を身体化していくきっかけを与えてくれたのです。それが、東京23区の「区境歩き」です。

 「区境歩き」のルールは、23区のいずれかを選択し、その区境に沿って一周するという、単純明快なものです。  地図上の「区境」が俯瞰(ふかん)できる指標となり、「区境」を実際に歩くことで浮かび上がる「ギャップ」や「ずれ」を体感することで、その周辺エリアの特徴や大きさ、高低差、距離感、空気感など様々な要素の連鎖を、敏感にとらえることができるのです。
 「歩く」という行為で体感できる土地の特徴には、実にリアリティーがあります。だからこそ、「歩く」という行為は、東京を思考する上で非常に役立つと同時に、その場所で「暮らす」という行為の、シミュレーションになるように思います。

 区の境を歩くという、一見、無意味なフィールドワークから浮かび上がる都市のコンディションは、平面的な地図とは明らかに異なる、旬の情報であり、真の意味での「東京の断面」といえるでしょう。
 都市を肌で感じたいという人には、気軽に体験できますので、一度歩いてみることをお勧めします。難しく考え過ぎず、自分のペースで、気が向いた所から始めて構いません。

 その場所で感じる住民の雰囲気や環境、湿度、におい、空気感などのすべての要素が、「都市」の正体です。気がつけば、あなただけの東京の地図が完成しているかもしれません。
区境沿いに歩いて行くと、このように住所表示が隣り合うシーンによく出合う。自分が境界という曖昧(あいまい)なエリアにいることを実感する

上野の不忍池周辺の区境では、都市と自然の境界がくっきりと現れている。自然側から都市を眺めてみると、異様さがより強調される

外堀とJR中央線が平行に走る区境。静と動が混在する境界線は、その両側をくっきりと分離し、別々の世界であることを示している

川が水路であった時代を彷彿(ほうふつ)させる区境。水面の船とは対照的に、両側の建築群は背中を向け合っている


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