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都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム  
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都心の小さな土地に家を建てて住む、「狭小住宅」が静かなブームになっている。建築家の黒崎敏は30代半ばにして、熱いスピリットと優れたアイデアで、この分野のトップランナーに躍り出た。これは、建築家と建て主が理想の都市住宅づくりを目指す「クリエーティブな冒険」の物語だ。

 
文/黒崎敏 狭小住宅論 一般建築論

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「SWITCH」
~トーキョー狭商住宅~


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広くなる道路と狭くなる敷地

 都心部の車社会は、とどまるどころか、さらに加速し、区画整備による道路拡幅工事は、昼夜を問わず、ノンストップで行われています。
 そのため、区画整備エリア沿いの住人にとっては、住まいの新旧を問わず、期間内に建て替えを余儀なくされるという、理不尽な状況が生まれているのが現実です。
 ただでさえ大きさの限られた都心の土地が道路拡張のためにさらに削られ、縮小する現実は、もはや皮肉としか言いようがありません。
 東京の"縮小化"はいったいどこまで進んでいくのでしょうか。

 道路のためにやむなく提供する敷地に関しては、管轄する行政に買い取ってもらうことで、住人は次の住まいの建て替え資金を手にすることができます。
 しかし、平穏な生活に突然、終止符が打たれ、路頭に迷う多くの家族を見る限り、お金だけで解決できる問題でないことは一目瞭然です。

 今回の建て主も、区画整備の影響を受けた一人です。  場所は品川区大井。この界隈では最も古い、大正12年創業のうなぎ屋さんを営むご主人は三代目で、義理人情に厚い若だんなです。
 美人の奥さんと二人三脚で営んできたお店が、区画整備により長期休業を余儀なくされたのは、ちょうど2年前のことでした。

 やむを得ず建て替え計画を始めたものの、行政や近隣との複雑な交渉などが重なり、設計者との打ち合わせもうまくいかず、とうとう暗礁に乗り上げてしまいます。

 「この状況をなんとか打開できないものか」
 建て主がすがるような気持ちで私の事務所を訪れた時には、計画着手から既に1年が過ぎようとしていました。

 区画整備によって大部分を奪い取られてしまった敷地は、間口こそ広いものの奥行きが非常に短い「うなぎの寝床」を横にしたような狭小地です。
 建て主は、新たなこの場所で、これまで通りお店を切り盛りできるのか、非常に心配していました。

 それに加え、店舗の上階には、4人家族のための住まいも用意しなくてはなりません。
 だんな様の悩める気持ちを理解した私は、その場で、快くお手伝いさせていただく返事をしたのでした。

 東京の商業地における店舗併用住宅は、もはやスタンダードといえます。店舗と住宅の優先順位はケースにより異なりますが、今回はお店のイメージを優先させ、ファサードからは家らしさを消したいという要望がありましたので、そのことを強く意識しながらデザインを進めていきました。

 ちなみに、今回の「お店優先」の考え方が、家族の中で見事に意思統一されていたことには驚きました。

 家族の形が多様化する昨今では、家族構成に縛られず、個人の趣味やライフスタイルが住宅の中心になったり、バラバラの思想の寄せ集めになったりすることも珍しくありません。
 しかし、「実家の商売」という中心軸は、いかなるスタイルよりも強力でした。家族経営のパワーそのものが住宅デザインの骨格に素直に表れ、生活のシーンにシンプルな美しさを醸し出しているのです。

 「狭商」であり、なおかつ「協商」。
 個性的でありながらも家族の絆(きずな)が強く表れた店舗併用の狭小住宅は、専用住宅には見られない独特の一体感であふれた空間であるといえるでしょう。
細長い船のような外観ファサード。削り取られた道路面沿いに配置した壁面は、開口部を少なく、閉鎖的にすることで、住宅のイメージを消すことを心掛けている

跳ね出している先端は、住居部分のバルコニーであり、下部は駐車場として利用されている。このアングルからは、道路拡張による後退部分の大きさがうかがい知れる

ファサードのルーバーから入る光、吹き抜け上部のハイサイドライトから入る光、ルーフバルコニーから入る光など、様々な光に包まれた空間は、閉鎖的な外部からは想像できないほど明るい


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