TOPLiving Style都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム

都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム  
BackNumber
都心の小さな土地に家を建てて住む、「狭小住宅」が静かなブームになっている。建築家の黒崎敏は30代半ばにして、熱いスピリットと優れたアイデアで、この分野のトップランナーに躍り出た。これは、建築家と建て主が理想の都市住宅づくりを目指す「クリエーティブな冒険」の物語だ。

 
文/黒崎敏 狭小住宅論 一般建築論

013
「BINO」
時代をつなぐ小さな家


  1 2 3 4

好きな場所で、自分らしい家に暮らす

 「東京の好きな場所を購入し、建築家と一緒にオーダーメード住宅をつくりあげたい」

 誰しも一度は、このような夢を描くことがあるでしょう。しかし、そう簡単に実現できるものではありません。

 少し前までは、大きなローンと引き換えに、40~50代の成功者のみ実現できるのが、都会の家づくりでした。
 しかし最近は、30歳前後のご夫婦から相談をいただく機会も増え、家づくりのボーダーレス化を実感しています。
 家を「買う」のではなく「つくる」ためには、気力も体力も充実している若い時期が最適なのです。

 終身雇用制度が崩壊し、社会の格差が広がる中、人生のイベントの一つとして、気負いなく家づくりを実現しようとする若者の姿には、住宅ローンに縛られて一生働くといった一昔前の犠牲感は見られません。
 仕事もプライベートもバランスを取りながら、よりよく生活するために、自らに心地良い負荷をかけ、人生を前向きに楽しみたいという素直な気持ちを感じます。

 通信関連会社の人事部に勤めるご主人は、元システムエンジニアの経歴を持つ33歳のビジネスマンです。
 大学時代にはイギリス留学を経験し、大きな組織の枠に埋もれるのではなく、自分で判断し、常に挑戦しながら生きていくことの大切さを学びました。

 建て主からは、個性と協調性が同居した独特のバランス感覚を感じます。信じるものに対しストレートに行動することを、日ごろから実践してきたのでしょう。家づくりに対しても、良い意味で迷いがありません。

 このような「バランス感覚」は、建築家との家づくりを志す30代の人々に共通する一つの特徴かもしれません。
 
 かわいい2人のお子さんの母親でもある美人の奥様は、宮古島出身のしっかり者です。優しく、おっとりとしたその性格からは、沖縄独特の品性と、ゆったりとした生活のリズムを感じます。

 建て主夫妻とは同世代として共感できる部分がたくさんありました。お会いして会話を重ねるたびに、家づくりに対するイメージが鮮明になり、形が生まれていくのが分かります。

 今回のように建て主との相性が良い場合は、家づくりのリズムが出てきますが、反対に、相性が悪い場合は、時間がたてばたつほど全体を見失い、最悪の場合は断念せざるを得ないケースも少なくありません。
 それだけ、家づくりは難しい作業なのです。

 家づくりに限らず、共同作業では、自分に合ったパートナーを選び抜く力が、何より大切です。
 建て主と建築家が協力し合い、互いに尊重し、信頼し合うならば、家づくりの8割は成功といえるでしょう。

 買うのではなく、つくりたいと願う建て主は、単なる「消費者」ではなく「プロデューサー」です。
 パートナーとして、「相性」と「バランス感覚」を見抜かなくてはなりません。
白いマッシブな上部と、木製ルーバーで覆われた下部のコントラストが明確。3階の開口部は、まるで双眼鏡で遠くをのぞいているようにも見える

坂道を上るエントランスからの外観。桜の木々が生い茂る中で、小さな家がひっそりとたたずむ

ルーバー製の大型引き戸を開けると、駐車場兼エントランスポートが現れる。普段は外から見えないため、防犯上も有効である

玄関ホールから寝室エリアを望む。寝室の横には奥様のピアノ室を設置。できるだけ朝日を取り込むことができるよう、開口部も大きく開けている


next
おすすめ情報(PR)