TOPLiving Style都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム

都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム  
BackNumber
都心の小さな土地に家を建てて住む、「狭小住宅」が静かなブームになっている。建築家の黒崎敏は30代半ばにして、熱いスピリットと優れたアイデアで、この分野のトップランナーに躍り出た。これは、建築家と建て主が理想の都市住宅づくりを目指す「クリエーティブな冒険」の物語だ。

 
文/黒崎敏 狭小住宅論 一般建築論

014
「DENIM 506」
履き心地の良い家


  1 2 3 4

リノベーションという選択

 家を持つためには、形や間取りも大切な要素ですが、まずはどこに住むかを選択し、決定しなくてはなりません。

 生まれ育った実家の建て替えであれば、悩むことはありませんが、数ある候補の中から、新たな場所を選ぶとなれば、迷うのは仕方がないでしょう。
 住むエリアを絞り込み、「その場所から移動しない」という強い覚悟を持った人のみが、家を所有する権利を得ることができるというわけです。

 「家を所有する決心をした際に頭に浮かんだのは、神楽坂という場所と、中古のマンションを購入し、改装して住むということ。新築は一切考えませんでした」

 そう語るのは、アナログゲーム作家のご主人と、雑誌の編集を行う奥様のカップルです。
 結婚して十数年になるご夫妻は、これまで、目黒、麻布、荻窪など、自分たちが気になる場所での生活を重ねながら、最終的に、この神楽坂という場所にたどり着きました。

 「様々な場所で一緒に生活してきたおかげで、お互いの趣味やスタイル、考え方が理解できるようになり、目指すべき空間が見えてきました。今までの生活経験がなければ、気が付かなかったことかもしれません」

 このように話をする建て主が新居をイメージしながら最初に掲げたコンセプトは、「デニム」でした。
 建て主自身が作り上げたコンセプトシートからは、使い込むほどに風合いが増す「デニムのジーンズ」のように、飾ることなく、自分たちでカスタマイズできるような空間を目指していきたいという明確な意思が伝わってきます。

 私はこのコンセプトを初めて目にした時、2人が新築ではなく「リノベーション」を選択した理由が理解できたように感じました。
 建て主は共通する皮膚感覚を求めていたのです。全く新しいものを目指すのではなく、すでにそこにある環境を尊重する中で、どこまで自分らしくいられるかが最大のテーマになりました。

 「デニム」という明確な意思を受け継いだ我々は、感覚を研ぎ澄ませながら、集合住宅の一室の特徴をくまなく観察しました。
 そして、建て主がこの部屋を選択した理由を共感するべく、この環境だからこそできる可能性を探し始めたのです。
デニムのような深い藍(あい)色で塗装された壁面は、太陽の光によって微妙な色合いを醸し出す。互いに相談して決定した特注のデニム色を、建て主自身が塗り上げた力作である

玄関の小さな開口部から、細長いホールに光が差し込む。さりげなく置かれたフロア照明や小物に、建て主の空気感が漂っている

コンパクトなキッチンには、アイランド型の台形テーブルを設置。上部は配膳台に、下部はお酒や食器などの収納になっており、両面から使用できるのが特徴である

計画の初めに建て主から提出された、リノベーションにおける「DENIM」コンセプトシート。プロならでは言葉の表現力と、モノづくりのポイントの押さえ方やバランスに感心する


next
おすすめ情報(PR)