TOPLiving Style都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム

都市住宅と私の冒険 狭小住宅イズム  
BackNumber
都心の小さな土地に家を建てて住む、「狭小住宅」が静かなブームになっている。建築家の黒崎敏は30代半ばにして、熱いスピリットと優れたアイデアで、この分野のトップランナーに躍り出た。これは、建築家と建て主が理想の都市住宅づくりを目指す「クリエーティブな冒険」の物語だ。

 
文/黒崎敏 狭小住宅論 一般建築論

015
「GRAPH」
風の中のSOHO


  1 2 3 4

緑に包まれた都市

 コンクリートジャングルといわれる東京を歩きながら、ふと回りを見渡してみると、意外なことに、大きな公園がたくさんあることに気が付きます。
 皇居をはじめ、新宿御苑、明治神宮、日比谷公園、代々木公園など、東京の主要な公園の多くが都心部に集中しており、都会のオアシスとして、積極的に人々に利用されています。

 建物が密集しているエリアであるほど、公園を配置することで、街全体に保たれている生活バランスを崩さないようにしているのが分かります。
 このようなシーンを見ると、限られたスペースに余白を設けることで生活バランスを保つ、小さな都市住宅の姿が思い浮かびます。

 30代の母であり、写真家でもある今回の依頼主が、2人の小さな男の子たちと一緒に暮らす新居として選んだ場所は、新宿御苑に隣接するマンションの1室でした。

 一面に広がる公園の緑は、都心とは思えないほど壮大な風景です。敷地が密集することの多い東京では、まさに奇跡のようなシーンといえるでしょう。

 一目見てこの環境が気に入った依頼主は、この部屋を自分流にカスタマイズすることで、新たな生活の拠点として、家族とともに楽しい人生をスタートさせたいと考えていました。

 「緑」という存在が、人々を引きつける理由はたくさんありますが、その一つに「普遍性」があります。

 加速度的な変化を繰り返す都市において、緑は、季節ごとに緩やかに姿形を変えながらも、根本的には変わらない力強い姿を、いつも我々に見せてくれます。

 日常に揺らぎを与えながらも、母性のように優しいまなざしでそれを見守る自然の存在に、人々はかけがえのない安心感を見出しているのでしょう。

 「都心の殺伐とした空気にはなじめません。そこまでして都心に住むより、緑や水辺の傍らで、自然に囲まれながら生活したいと子どものころから思っていました」
 藤沢の海岸近くで生まれ育った依頼主は、優しい人柄を表すような、ゆったりとした口調で語ります。

 「大都会にある壮大な自然環境」という希少な条件を前にして、この素材をどのような料理に仕上げるかは、建築家の腕の見せ所といえるでしょう。
 依頼主の自然に対する思いを一身に受けながら、我々の設計がスタートしました。
リビングからエントランスホールと廊下部分を見渡す。
それぞれのエリアが緩やかにつながることで、ワンルームを構成している

リビングサロンは仕事と生活を横断する場所。正面の開口部にしつらえた木製のバーチカルブラインドは、壁面のデザインとなり、ソファやテーブルと"対峙(たいじ)"している

リビングの脇にしつらえた造作棚には、写真集やアートの書籍が並ぶ予定。正面の畳収納とデザインを合わせることで、壁面の一部として見せている

折り畳み式の収納畳を広げると、リビングの雰囲気もがらりと変わり、床に座る生活でリラックスできる


next
おすすめ情報(PR)