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La Normandie ノルマンディー  
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La Normandie
豊饒の庭  
文・写真:滝田順 ガーデンマップ

第15回(最終回)
ノルマンディーの庭文化
風景と体が一体化するユートピア

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庭を通してフランスに入る

 ノルマンディーの庭を巡る旅を通して見えたことは、日本の文化をベースに持ちながらフランスに暮らす自分の姿であったように思う。70年代の日本の経済成長期に、東京郊外の武蔵野で少年期を過ごしたことが、パリに住みつつノルマンディー地方へ興味を深めていった要因であることは間違いない。ノルマンディー地方には、当然武蔵野とは違った面影があるが、僕の少年期の心が、時を超え武蔵野の林をいまも彷徨(さまよ)っているように、パリの人々は自らの影法師をノルマンディーの風景に投影させる。その影法師たちに出会うと、心の深淵で互いを分かち合える気がするのである。
庭園から望むバルロワ城。緩やかに波打つ芝生の奥にそびえる、正三角形を基調とした城のたたずまい
 住み慣れた文化を離れ、全く違う文化の流れに身を投ずることによって、自分を客観視する機会が与えられ、自身の描く「自分」のイメージに、ある種の輪郭を与えることができる。「三つ子の魂百まで」ということわざ通り、幼少期の日本での経験や思い出は、どうやら死ぬまでついて回るようだが、フランス文化の方はといえば、18年間過ごした今でも所詮フランスは僕にとって外国であり、アイデンティティーを見いだすことなど無理ではないかと感じる時がある。文化の壁というのは想像以上に高い。
左/バルロワ城のイギリス式庭園部分。マツやオークの巨木や叢(そう)林に、広い空の雲が背景として重なる
右/同。東西方向へ延びる緑の中央を、ビスタ(見通し景)を構成する直線道が通っている
 そんな僕にとって、庭はフランスへの入り口の一つであった。日本人のフランス好きは言うまでもないが、フランス人の日本好きもそれに劣らない。特にフランス人の庭に関する関心は一般に高く、日本庭園の話には誰もが耳を傾ける。ノルマンディーの多くの庭園にも、日本からもたらされた植物たちが風景の重要なスポットに誇らしげに植えられたりしている。フランス人たちは、異文化の奥深い部分を庭園から垣間見ることを望んでいるので、日本人の僕にも容易に心を開いてくれる。

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