TOPLiving Styleノルマンディー 豊饒の庭

ノルマンディー 豊饒の庭  
Back Number
La Normandie
文・写真:滝田順 ガーデンマップ

第15回
(最終回)

ノルマンディーの庭文化
風景と体が一体化するユートピア


  1 2 3

文化の多様化を栄養にするノルマンディー

 パリから車を走らせノルマンディーに入ると、なだらかな丘陵地帯に牛の放牧地と林が交互に続く風景が僕を迎えてくれ、心は自然と浮き浮きし始める。広い空の下へ舞い降りた開放感に包まれ、車内に飛び込んでくる空気を胸いっぱい吸い込む。パリの喧噪やコスモポリットな雰囲気に何か疲労感を感じたとき、ノルマンディーの風景はいつも安堵感を与えてくれる。
左/ノルマンディー南部のペルシュ県にあるル・テルトル城の庭。正面の丘の上に近くの村が望める。この城は、ノーベル賞作家ロジャー・マルタン・デュ・ガールが20世紀初頭に購入し、改築した。手前はクローバーの形をした水盤
右/ル・テルトル城の内部にある、ファブリック(Fabrique、庭園のパビリオン)。下の穴は当時の貯蔵庫。この庭はもともと18世紀には、ロマンチック庭園であった
 ノルマンディーの庭文化の発展は、世界の人種が混在するパリの人々の視線なくしてはありえない。歴史を振り返ると、大都市の発展は、その内部や周辺に庭文化を芽生えさせるようだ。光と影のように、都市と庭は両者一対でしか存在し得ない関係なのかもしれない。
左/ファブリックの内側から庭園を眺める。夏至の日の入り方向に窓が設けられている
右/ノルマンディーのほぼ中央に位置するユール県にあるサン・ジュスト城とその庭。城正面の斜面に配置された芝生のビスタ。空からの光と風が緑の芝生の上に流れ落ちる
 地球規模で進む今日の環境問題は、人間の経済生産活動を今のまま進行させると、自らの居住環境をいずれ破壊してしまうことを示唆している。最近発表された研究結果では、化石燃料を大量に消費することで、地球全体の気候変動を引き起こした可能性が非常に高いという。先進国の大都市に住む人々のみが便利さを享受するのではなく、開発の遅れた地域を活性化させながら、同時に残された自然を保護していくことが強く要求されている。経済のグローバリゼーションは、先進国の更なる金儲け手段に使われるのではなく、世界経済にバランスを持たせ、均等な富の配分を促進するものでなければならない。そういった現代の自然―都市―人間の関係性の中で、次の世代の「庭」がどういうものであるべきか決定されていくはずだ。
 17世紀の王政のころに栄えたフランス式庭園から、18―19世紀の産業革命の落とし子であるイギリス式庭園へとヨーロッパの庭園の形態が大きく変化し、地理的にフランス、イギリス両国の間にあったノルマンディーでは、何のはばかりもなく2つの形態を庭に混在させた。以後、グローバリゼーションがより進んでいく21世紀の世界で、庭は文化の障壁を逆に成長の栄養素として、多様化の更なる浸透を促進しつつ、新たな形態を発生させるに違いない。
左/サン・ジュスト城の庭園部分。林の斜面と階段状のカナール(水路)。豊富な量の湧き水が下の池へと流れ込む
右/城の側にある池。レタスのような葉形をした水草が水底を覆い、水中にもう一つの違う世界があるように見える

back   next
おすすめ情報(PR)