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ノルマンディー 豊饒の庭  
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La Normandie
文・写真:滝田順 ガーデンマップ

第15回
(最終回)

ノルマンディーの庭文化
風景と体が一体化するユートピア


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風景と体が一体化するユートピアを求めて

 庭の感想を表現する上で「美しい」という言葉ほど、中身の乏しい形容詞はない。庭に限らず権力のある人間が、何かを「これは美しい」と定義してしまえば、民衆はそれに簡単に迎合する傾向がある。僕は今回のコラムの文中で、美しい庭という表現を極力読者に押しつけないよう努力した。どうしても使わざるを得なかったところは、アンジェリック庭の紹介で書いた「『庭=手入れを継続するシステム』という構図が完成されている庭は美しい」という部分である。

 外観うんぬんより、手入れのシステムがどのように組み立てられているかによって、庭の良しあしが評価されるべきだ。今回のコラムでは、制作者の体の延長として庭が手入れされているかという点を特に注視しながら庭を拝観し、紹介するかどうか判断した。庭とは生きた空間でなければならず、制作者の体との間に一体感が保たれていなければ、庭は成立しない。どのような形で、庭と体を一体化させるかは、制作者の経験やセンス、知性にかかっている。
左/ボービル城の庭。遠景にわずか見える石造りの建築物が城。ドーバー海峡に突き出す半島の先端に位置するシェルブールの町から近い。暖流の影響で気温が穏やかなため、数多くの植物が根付いている
右/同。5月の庭は生き生きと育つ植物たちであふれる
 自然や風景を通して映し出される、自分のイメージを構築するための場が「庭」であると思っている。幼児が分からない物を、まず口に入れて自分と世界の関係性を確かめるように、世界と自分の間に境界線をつくることなく、風景を足がかりに自分を構築していくとき、世界はその扉を徐々に開いていく。美しさとは、ある一個人が一方的に押しつける判断基準ではなく、見るものと見られるもの、両者の共振によって立ち現れる感動であろう。恋した乙女が心身ともに美しくなるように、見る主体としての人間が、包まれる風景とまさに一体感を得た瞬間に庭が美しくなる。
左/様々な植物の密集する中を小道が通っている。トロピカルな植物もあり、フランス北部の風景とは思えない
右/庭から海を望む。巨大なグネラの葉が特異な風景づくりに一役買っている
 およそ1年にわたり紹介してきたるノルマンディーの庭の中で、読者が少しでも僕の感じた庭との一体感を共有していただけたら幸いである。
Profile  
滝田 順(たきた・じゅん)氏 プロフィール写真 滝田 順(たきた・じゅん)

アーティスト。1966年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、89年に渡仏し、パリ国立美術学校マスターコース修了、フランス政府給費生。彫刻家・故ピョートル・コワルスキーに師事し、パリを拠点にアーティストとして活躍する。また、フランスの公共美術と都市計画の現状などを、日本のメディアに紹介している。
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