TOPLiving Style路地裏の極上住宅

優れた住宅をつくろうとするとき、その原動力になるのは、建て主が見せる強い意欲とパワーであり、建築家が示す熱いスピリットとアイデアである。東京において、極上住宅は路地裏に生まれ、育ち、鍛えられてきた。これは、路地裏で身を粉にしてきた建築家が、活動の舞台を表通りにまで広げ、さらなる極上住宅をつくろうとする物語である。

極上住宅とは何か ~デザインという贈り物~

建築家とクライアントの情熱と信頼

 私が路地裏で「極上住宅」をつくるためにアトリエを立ち上げたのが、ちょう2000年のことでした。この12年間はめまぐるしく世界経済が揺れ動き、不動産バブルの一時期を除けば、おおむね停滞していた時代といえるかもしれません。

 21世紀に入りすぐに同時多発テロが勃発し、イラク戦争を始めたアメリカでの2007年のサブプライムローンの破たんを機に、世界同時不況に陥りました。2010年から始まった欧州債務危機によりユーロ圏の経済も低迷を続けています。

 一方で、北京オリンピックを機に中国の躍進は目覚ましく、その勢いでアジア全体がレベルアップしましたが、日本では長く続く低迷に光明は見えてきませんでした。そうした中で東日本は大震災と津波に襲われ、原発事故という極めて深刻な問題が起こりました。

震災のさなかに進めていた仙台の住宅プロジェクト。状況に左右されることなく、常につくり続けることで、前向きなエネルギーが生み出された(撮影:西川公朗)

 建築と経済の関係について当時の高等教育でも学ぶことがなかったのはアカデミズムの特性からは当然ですが、今の学生は建築が最も経済に左右されるものであることに既に気が付いています。実際の建築はつくらず、ものごとの仕組みや概念を生み出すニュータイプの建築家像も生まれていますが、まさしく「つくれない時代」の産物だといえるでしょう。

 人口減少時代に突入し、省エネルギーから創エネルギーへと住宅を取り巻く状況も大きく変化しました。つくらずにあるものを生かすリノベーションの手法や限られたリソースを分配しながら合理的に生活するシェアハウスの考え方も徐々に浸透し、今では人々のマインドに的確にフィットしているように思います。

オリジナルの骨格を生かし、自分たちのライフルタイルに合わせた空間をつくり出そうと試みた築40年の住宅フルリノベーション(撮影:西川公朗)

ショップ兼ギャラリーの路面店として建てられた自宅併用の店舗は明確なエリア分けをしないことで職住一体を実現している(撮影:西川公朗)

 このような状況下においても、私たちはゼロからつくることの大切さを忘れないよう、あえて新築にこだわりながら活動を続けてきました。なぜなら、つくらない現代においても「つくりたい」と願うクライアントが世界中に存在していたからです。

 つくり難い時代だからこそ、新しくつくることには相当のエネルギーやしかるべき根拠が必要になります。なぜつくるのかを自問自答しながらつくることで、クライアントにもつくり手にもある種の覚悟が生まれるのです。

 どんなに小さくてもよいのでオリジナルの住まいを生み出したいと願うクライアントの健気なデザインマインドに私たちはいつも勇気をもらいました。それがエネルギーの源になっていることに疑いの余地はありません。

 建築をつくりたいという私の一途な気持ちに対し、信頼を与えてくれたクライアントの期待に少しでも多く応えるという使命感が加わることで、これまで80棟もの極上住宅を手掛ける機会に恵まれました。クライアントの存在なくして現在の私たちはないでしょう。

 極上住宅とは建築家とクライアントが互いに「つくりたい」と強く願うことよって生まれるものであり、情熱と信頼からしか生まれ得ないものなのです。

小住宅でもオリジナルを目指すことで極上住宅が生まれる(撮影:西川公朗)

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