TOPLiving Style路地裏の極上住宅

優れた住宅をつくろうとするとき、その原動力になるのは、建て主が見せる強い意欲とパワーであり、建築家が示す熱いスピリットとアイデアである。東京において、極上住宅は路地裏に生まれ、育ち、鍛えられてきた。これは、路地裏で身を粉にしてきた建築家が、活動の舞台を表通りにまで広げ、さらなる極上住宅をつくろうとする物語である。

「グッドビューハウス」 ~眺望という極上~

「眺望」のある敷地を料理する

 建築家は建てる場所を選ぶことができません。しかし、その場所の特性を理解しながら、建築という行為を通して敷地を視覚化していくことは可能です。人は誰でも素晴らしい敷地に引かれます。その場所の素晴らしさは、建築が出来上がるにつれ確信へと変わり、生活者は建築を介して場所との深い絆(きずな)を実感するのです。

 東京郊外の小高い丘の上。親世帯の住宅と手入れの行き届いた庭園が広がる敷地の隣にある土地を生かして、子世帯の住宅を計画したい、という相談を受けました。200平方メートルを超える広い敷地でしたが、ほとんどが傾斜地であったため平地は限られ、建て主は縦に積み重なった小さな住宅になることを覚悟していたようです。

 トルコ語で「丘」という意味を表わす「TEPE」と名付けられたこの住宅。初めて見た敷地の眺めはまさしく絶景で、遠くに見える梅林の緑が心を癒やしてくれました。聞くところによると、それらは親類の所有する林であるため、将来的に建物が建つ予定もなく、しばらくはこの絶景が確保できそうだということが分かったのです。

大きな開口部を持つ黒い箱が丘から浮遊しているようなファサードの構成が印象的である(写真、西川公朗)

 建築家が敷地と最初に出合うときは、興奮し、心が躍るものです。歩き回りながら、様々な角度から眺めるうちに、インスピレーションがわいてくることが少なくありません。魅力的な敷地であればあるほど、その場所にしばらく佇(たたず)むだけで、建築の輪郭がぼんやりと浮かび上がり、すぐにでもプランニングを始めたいという衝動に駆られます。

 この場所は絶景を素材に料理ができる。そう確信した私は、「眺望」という極上の素材を最大限に生かすべく、あえて傾斜地に計画し、建て主に提案してみることにしました。すると、建て主は傾斜地に建築することは技術的に無理であろうと考えていたようで、予想外のプランに驚きと喜びの表情を浮かべていたのです。

 眺望を確保するためには、建築を前面道路側にせり出す必要があったため、できる限り丘の上部にある平坦な敷地で本体を支え、残りを跳ね出しの構造にしなければなりません。 そうすることで結果的に前方が突き出し、丘から浮遊したような不思議な感覚が生まれ、界隈のランドマークになったというわけです。

4メートルを超える跳ね出し部分。建物下からの見上げは圧巻である(写真、西川公朗)

 建物下からの見上げはまさしく圧巻です。せり出している部分は4メートルを超えるため、どのような構造で建物が支えられているのかは、少し見ただけでは分かりません。先端がバルコニーと庇(ひさし)になっていることで、その部分が歩行者の見上げの視界を制御する役割を担い、プライバシーを確保することにも成功しました。

 開きつつも、閉じたい。その願いを、敷地の高低差を利用したファサードデザインによって解決することができたのです。跳ね出した建物がライトアップされた夜の雰囲気もまた格別。傾斜地であることを逆手に取りながら最大限に利用することで、オンリーワンの建築は生まれるのです。

 建物のオリジナリティーが表現され、建て主の愛着へとつながることで、「改めて土地と建築の強い結び付きや、この地に暮らすというご縁を実感した」。建て主はそう話します。敷地を初めて見た時のインスピレーションを大切にしながら、特性を丁寧に読み込み、建築としてうまく形にすることこそが、我々建築家に期待される仕事なのです。

建物内部は開放感を取り入れつつも、跳ね出し部分によって前面道路からのプライバシーを確保している(写真、西川公朗)

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