TOPLiving Style路地裏の極上住宅

優れた住宅をつくろうとするとき、その原動力になるのは、建て主が見せる強い意欲とパワーであり、建築家が示す熱いスピリットとアイデアである。東京において、極上住宅は路地裏に生まれ、育ち、鍛えられてきた。これは、路地裏で身を粉にしてきた建築家が、活動の舞台を表通りにまで広げ、さらなる極上住宅をつくろうとする物語である。

「ヴィンテージハウス」 ~リノベーションという極上~

デザインの再構築

 「ヴィンテージ」という言葉は、かつてはジーンズなどの古着や、デッドストック(売れ残り品)の時計などで使用されてきましたが、2000年以降、空間デザインの世界でも使われ始めました。

 そのきっかけが、「ヴィンテージ・マンション」です。年を重ねるほどに凛(りん)とした佇(たたず)まいに磨きがかかり、堂々とした風格が増す集合住宅は、日本よりもむしろヨーロッパの方が一般的です。

 この言葉を日本で初めて世に送り出した不動産会社トランジスタの木村茂氏は、「空間がもつ時間や記憶の概念には人々を引きつける魅力があり、新築には存在しない中古独自の感覚がある」と話します。

マンション特有の要素を払しょくし、インテリアを再構築した「GRAPH」のリビング(写真、西川公朗)

 「新しさ」は住宅にとって大変魅力的ですが、時間が経過し建物が古くなるにつれ魅力が失われるような空間は、本質的に優れているとはいえないでしょう。むしろ、古びるほどに徐々に味わいが増すような空間に人々は引きつけられ、そこでは自分と空間の関係がより強固なものになるのです。

 現代では一般的になった「リノベーション」という考え方は、ゼロから何かを生み出す概念ではなく、すでにそこにあるものを受け入れることから始まります。あらゆるものにはしかるべき存在理由があり、そのすべてを知ることは容易ではありません。そのため、状況をつぶさに観察し、断片を紡ぎながら本質を理解しようと努め、関係性をいかに再構築すべきかを慎重に議論していく必要があります。

 リノベーションのプロセスで最もエキサイティングなのは、自らがかかわることにより、停滞していた空気が息を吹き返し、新しいシーンが生まれる瞬間ではないでしょうか。その感覚は、単にモノを買ったり交換したりする行為とは本質的に異なるものづくり特有の快感であり、リノベーションの熱狂的なファンを年々増やし続けています。

「GRAPH」のリビングからエントランスホールと廊下部分を見る。ワンルーム化したスペースがそれぞれのエリアを緩やかにつないでいる(写真、西川公朗)

「GRAPH」ダイニングを見る。艶(つや)のあるアンティークの天板に、新宿御苑の緑と空の青みが映し出される(写真、西川公朗)

 パブリックな場所や状況が、自分自身の生活の舞台となることで、その空間はさながら体の一部のように特別なものへと昇華します。それはまさしく「リ・デザイン(デザインの再構築)」であり、人々の記憶をつくり上げ、愛着という極上感を生み出す手法といえるでしょう。

 これまで手掛けてきたたくさんのリ・デザインを振り返ってみても、住み手特有の考え方が色濃く反映され、どこか動物の巣づくりにも似た印象を受けます。

 それでは、幾つかのリノベーション事例を見ながら検証してみることにしましょう。

白と黒のモノクロームの空間を、家具に内蔵した間接照明により幻想的に見せている「JAM」の内観(写真、西川公朗)

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