TOPLiving Style路地裏の極上住宅

優れた住宅をつくろうとするとき、その原動力になるのは、建て主が見せる強い意欲とパワーであり、建築家が示す熱いスピリットとアイデアである。東京において、極上住宅は路地裏に生まれ、育ち、鍛えられてきた。これは、路地裏で身を粉にしてきた建築家が、活動の舞台を表通りにまで広げ、さらなる極上住宅をつくろうとする物語である。

「ワーク・ライフ・バランス」 ~SOHOという極上~

複合化する住宅

 世にあふれる情報や物事をつぶさに観察してみると、この十数年のうちに随分と複雑化しているように感じます。それは住宅に関しても同様で、もはや「家」というシンプルなカテゴリーでは言い尽くせないほどの複雑性を有しています。

 戦後に供給され始めた住宅には、家族のための生活の器という単純な図式がありました。そこには、日々の仕事から解放されたひとときを家族とともに過ごす安らぎの場が求められたのです。しかし、都市化が進み、女性が社会進出し始めた1980年代後半を境に、この図式は少しずつ変化していきます。

 都市に家を構え、家でも仕事をする人は確実に増えました。仕事の場としての機能を兼ねて構成される家のことを、SOHO(Small Office Home Office)と呼びます。これは家庭内工業とも言えますが、家庭内工業が職住近接であるのに対し、SOHOは職住一致ですから、厳密には新しい現象であるといえるでしょう。

1階がうなぎ屋、2階がオーナー住宅の店舗併用住宅となっている「SWITCH」のファサード。杉板型枠のコンクリート打ち放しと漆喰(しっくい)のコントラストが美しい(写真、西川公朗)

 例えば、SOHOに代表される編集者やライター、イラストレーターなどのクリエーターの人々にとって、生活と仕事の間には厳密な境界は存在せず、それぞれの中間領域に自らが存在することで創造性にあふれる仕事が生み出せる、と考えています。つまり、家と仕事の両方の空間を分けて持つ必要はなく、職住一致こそが生活であり、仕事であるというわけです。

 しかし、このような職住一致空間はどこを探しても見当たりません。つまり、自分に合わせて新たにつくる必要があるわけです。建築家によるリノベーションやオーダーメードで新築する人が多いのは、自分の職住にジャストフィットする空間を求めているからにほかなりません。

 あらゆる振る舞いを行う空間が住まいですから、そこには多くの機能が求められます。就寝や入浴などの生活の基本行為はもちろん、仕事のしやすさやリラックスができる工夫まで、その要求は詳細かつ多岐にわたります。

 また、限られた空間で生活と仕事を両立させるためには、例えばダイニングテーブルとミーティングテーブルを兼用するなど、工夫やバランスが随所に求められます。このバランスが崩れると、仕事にも生活にも支障を来し、瞬く間に人生の歯車が狂い始めます。

建て主が音楽家である「NOIR」。鉄筋コンクリート造りのスタジオ空間と木造の住宅のハイブリッドが特徴的である(写真、西川公朗)

「NOIR」のファミリー空間。緩衝帯となる廊下とらせん階段を挟んで同一平面上にスタジオが併設されている(写真、西川公朗)

 つまり、SOHOでは、仕事(ワーク)と生活(ライフ)を両立させるために必要な「バランス」が問われているといえるでしょう。ただし、ワーク・ライフ・バランスというと一般には、仕事と生活それぞれを両立するために必要なバランスという風に解釈されますが、SOHOの場合は必ずしもそのようには考えません。

 SOHOの場合、まずはワークとライフのそれぞれに全力で取り組むことで、その両者の中にある共通項や差異を的確に見極めなくてはなりません。両者の関係性を丁寧にコントロールしながら、ひとつの空間に収めるためには、これしかないという確信が必要です。すなわち、シンプルな生き方を身につけるセンスこそが、真の「バランス」には欠かせないのでしょう。

 対立関係にあった仕事と生活が同一のものになるとき、空間はどのように存在すべきなのでしょう。今日、建築家に突きつけられる問いに対する複合的なソリューションは多岐にわたります。これまでのSOHOの実例を見ながら、生活者がいかにして極上の人生をシンプルに生きているのか、をご覧いただきたいと思います。

3階建ての店舗併用住宅である「La Poser」のファサード。1、2階はセレクトショップとカフェ、3階にオーナー住宅を配置している(写真、西川公朗)

おすすめ情報(PR)