TOPLiving Style路地裏の極上住宅

優れた住宅をつくろうとするとき、その原動力になるのは、建て主が見せる強い意欲とパワーであり、建築家が示す熱いスピリットとアイデアである。東京において、極上住宅は路地裏に生まれ、育ち、鍛えられてきた。これは、路地裏で身を粉にしてきた建築家が、活動の舞台を表通りにまで広げ、さらなる極上住宅をつくろうとする物語である。

「アーバン・スモール・ビルディング」 ~賃貸併用という極上~

「アーバン・スモール・ビルディング」の世界

 地価の高い東京などの都市を見渡してみると、個人で土地を所有することに、いささか限界を感じてしまうことが少なくありません。それと同時に、商業施設や集合住宅が立ち並ぶエリアや、鉄道駅を中心としたターミナル周辺の風景には、さしたる固有性が見られなくなり、ワンパターンな展開が連続し、都市は均一な表情で固定されつつあります。住宅が減り、無個性なビルが立ち並ぶだけでは、新陳代謝は期待できず、このままでは都市の魅力が半減していくことにもなりかねません。

 そもそも、都会の一等地を所有して一戸建て住宅を建て、生活を展開することは、経済的な問題はもちろん、ライフステージの変化を考慮してもリスクが高すぎます。そのため、生活することに加え、一部を賃貸し収益を得るケースも増えてきました。都市生活者でありながら、同時に大家になることで、副収入を新築住宅のローン返済に充てるケースは、現在さほど珍しくはありません。

賑わいのあふれる商業地域に建つ「HB」のファサード。コンクリート打ち放しと木製ルーバーの構成が印象的(写真、西川公朗)

 我が家を賃貸併用住宅にすることで、下層階を貸し、上層階で生活を送るスタイルは、都市においては至極合理的な手段であるといえます。とりわけ、高さ規制が緩く、空間を縦に積層できる商業系エリアなどでは、できるだけ多くの賃貸空間を確保することで生活と賃貸事業を両立させることがミッションになります。

 個人住宅から発想する都会の賃貸併用住宅は、必然的に小さな敷地における「アーバン・スモール・ビルディング」となるため、建築空間には独特のフォルムが生まれます。家々がひしめき合うような都市環境では、コンパクトな土地の中でいかに合理的に美しい空間を生み出すかが建築の重要なテーマになり、その結果が、建築空間に個性として現れるわけです。

 例えば、限られた敷地面積を逆手に取り、天井の高い大胆な吹き抜けと軽快なスキップフロアにすることで階段状につなげた空間構成は、まさしく「アーバン・スモール・ビルディング」ならではのオリジナリティーであるといえるでしょう。

大きな吹き抜けのある最上階のオーナー住居は明るく、眺望も最高。バルコニーの手すりは視線もコントロールする(写真、西川公朗)

スキップを設けたLDK空間。空中に浮かぶ中庭には、ルーフバルコニーへのアクセス階段も設置されている(写真、西川公朗)

 最近、これらのオリジナリティーに一目を置いているのが、30代を中心とする若年層です。彼らは社会が不安定な状況下に社会人となり、以来、そのような世の中をどのように生き抜くかを真剣に考えてきた世代です。それゆえ、合理的思考が基本となり、いかなるときも決して無理をしようとしません。インカムを生み出すのはもうけるためではなく、あくまで損をしないための周到な戦略であるといえるでしょう。

 彼らにとって家賃やローンは生産ではなく消費そのものです。所有していないものに対して大金を払い続けること自体に、「もったいない」という非合理性を感じているようです。また、どうせなら楽しみたいという気持ちも強くあるでしょう。難解な専門知識を必要とする場合でも、昨今ではインターネットであらゆる情報が得られますから、その気になれば誰もが、「アーバン・スモール・ビルディング」のオーナーになれるというわけです。

 住宅を「アーバン・スモール・ビルディング」にすることで、賃貸空間は自身の趣味や仕事などにもつながり、SOHOなどの多用途空間を生み出すことが可能になります。これらは都市ならではの考え方であり、日本のみならず全世界の都市で通用するものではないでしょうか。

 2000年以降、私たちは数多くの「アーバン・スモール・ビルディング」を設計してきました。ここではその実例を、いくつかご紹介していきたいと思います。

1階は店舗、上階は賃貸併用住宅となっている。空間を積層することで商業空間と住空間を両立させている(写真、西川公朗)

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