TOPLiving Style路地裏の極上住宅

優れた住宅をつくろうとするとき、その原動力になるのは、建て主が見せる強い意欲とパワーであり、建築家が示す熱いスピリットとアイデアである。東京において、極上住宅は路地裏に生まれ、育ち、鍛えられてきた。これは、路地裏で身を粉にしてきた建築家が、活動の舞台を表通りにまで広げ、さらなる極上住宅をつくろうとする物語である。

「アーバン・スモール・ホテル」 ~ミニマムホテルという極上~

「スモール・ステイ」という極上

 あらゆる都市には新陳代謝がつきものです。状況に応じて繰り返される大規模開発や未曾有(みぞう)の大災害などでは、ひとつの歴史の終わりと同時に、新たな風景に立ち会うことになります。

 街並みが大幅に更新されるほど、居住者はその変化に順応するために多くの時間を費やすことになります。もちろん、ゼロから新しい関係をつくり上げてゆくことは容易なことではありません。

 そのため、人々は少しでも変化に順応するために、小さくても良いので、一時的に立ち止まることができるような空間を、街並みに求めるようになります。カプセルホテルやカラオケボックス、インターネットカフェや会員制の自習室など、閉ざされた個室空間に秘められたある種の快感は、公私の中間に存在する現代人にとってのすき間を埋めるような空間であるからこそ、といえるでしょう。

 小さな公私の中間領域を一時的に上手に活用しながら、必要十分の生活を楽しむ。すなわち、「スモール・ステイ」の概念は、リソースが限定されている島国日本の十八番といえるでしょう。

コンクリート打ち放しと木製ルーバー、ガラスのコントラストで構成された「Kangaroo Hotel」のファサード(写真、西川公朗)

 居住空間における「スモール・ステイ」のひとつにワンルームマンションがあります。ワンルームマンションは単身若年層が一時的に利用するコンパクトな居住空間ですから、必要十分な大きさでもさして問題はありません。

 またワンルームマンションの進化形として都市部でも増殖を続ける「シェア・ハウス」も、「スモール・ステイ」の典型であるといえるでしょう。小さな空間で単身生活を送るより、ドラマに出てくるような広めのダイニングキッチンやリビングスペースを大勢の人とシェアしながら、楽しく合理的に生活したいと願う若者同志が、一時的に疑似家族を構成し、共同生活を行うというソリューションは、極めて現代的な現象であるといえます。

 そこには、共同生活によって生活費を抑えたいという若者の現実的な事情もあるようですが、必ずしもそれだけではなさそうです。個室を与えられることが当たり前の時代に育った世代は、他人と「シェア」をしながら生活を送るという「ある意味で不自由な体験」がかえって新鮮に映り、そのこと自体を心底楽しんでいるようにも思えます。

各客室用の水平連窓が印象的な北側立面。ミニマルな客室が一直線に配置されている(写真、西川公朗)

 これらの現象には、成熟の象徴である「所有」の時代から「共有」の時代への新たな変化を、確実に垣間見ることができます。空間を所有することだけではもはや満足ができず、さらなる何かを追い求めた結果、皆で共有し、共感を生み出すことで、生活の感動やリズムが生まれます。それが結果的に、停滞する都市スペックの代謝を促している現象は、エコロジカルな時代に即した未来的な生活手法といえるでしょう。

 慢性的な不安で埋め尽くされた現代だからこそ、思いも寄らない工夫が生まれるのも事実です。所有ではなく共有することで、人との共感を生み出し、その延長にある空間へとつながるという思想は、あらゆる局面で今後進化が続いていきそうです。

 ここでは、我々がデザインを手がけたホテルを通して、「スモール・ステイ」の実例をご紹介していきたいと思います。

エントランスロビーは、共用のインターネットスペースやカフェ空間としても機能している(写真、西川公朗)

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