TOPLiving Style路地裏の極上住宅

優れた住宅をつくろうとするとき、その原動力になるのは、建て主が見せる強い意欲とパワーであり、建築家が示す熱いスピリットとアイデアである。東京において、極上住宅は路地裏に生まれ、育ち、鍛えられてきた。これは、路地裏で身を粉にしてきた建築家が、活動の舞台を表通りにまで広げ、さらなる極上住宅をつくろうとする物語である。

越境する住宅デザイン ~地域における極上住宅~

ボーダーレスになった住宅設計

 未曾有の東日本大震災から半年ほどが経過し、今もなお建築界の話題の大半は東日本大震災や原発問題に対するものに集中しています。とりわけ、被災地に関わる建築家は、今後どのように地域と接していくかについて、いや応なしに問われることになります。

 仮設住宅や復興計画に対して素早いアクションを起こしている建築家も、なかなか一筋縄ではいかないようです。もちろん制度の問題などハードルはありますが、実際には地域における複雑な事情を深く理解できていない提案も少なくありません。

 たとえ地球の真裏であっても、必要とされれば現地へ赴き、場とともに行動する覚悟を持つことが建築家には必要です。建築家のフットワークは、インターネットなどの通信手段の発達により、今後はさらに軽くなっていくでしょう。

 普段は関東圏を中心に活動を行うわたしも、縁あって、仙台や福島、茨城、新潟などの東日本一帯で住宅設計を手掛ける機会が増えてきました。現在では、東海、九州、四国などの西日本も加わり、Eメールやスカイプを駆使しながら、建て主とのコミュニケーションを図り続けています。必要に応じて現地へ確認に出向くことができれば、意思の疎通には困りません。

2010年9月に竣工した仙台の物件。今回の震災においても、精度の高い施工のお陰でまったく無傷であり、建て主もこれまで通りの生活を送っている(写真:西川公朗)

 かつての住宅設計は地域密着が基本でした。それは情報が不十分で、地域外の人々に設計依頼をする具体的な手段がなかったためです。しかし、現在は建築家の情報発信技術も向上し、いかなるエリアとも気軽に交信できるようになりました。好みの建築家を選定し、事前に情報交換をしっかり行い、思う存分家づくりに挑戦できる素晴らしい時代です。

 また、全国の施工者の技量も格段に向上しました。建築家のデザインや考えに数多く触れることで施工者の技術は鍛えられ、いかなるエリアでも高い技術を駆使した美しい建築を実現することができます。これは大きな進歩だといえるでしょう。

新潟の住宅。奥行きのある「ブリーズソレイユ」は日照調整に加え、積雪を前面道路に落とす役割も果たしている(写真:西川公朗)

3メートルを超える積雪を考慮して1階はピロティーとし、生活階である2階には中庭から十分な自然光が注ぎ込まれる(写真:西川公朗)

 地域の建て主と接するなかで感じることは、建築に対するこだわりや思いの強さです。それはまさしく東京の建て主以上といっても過言ではありません。彼らには「この地域だから妥協する」という発想が毛頭ありません。納得できるデザインを自宅の設計で実現したいと願う気持ちの強さが、遠方の建築家との物理的な距離を埋める原動力になっています。

 量産住宅のような画一的な手段には目もくれず、迷うことなく、建築家と協働しながら「つくること」を選択している人は、いいかえるならば、つくるより他に手段がなかった人です。このような人は全体からすると決して多くはありませんが、100人中数人程度の割合で全国至るところに存在しています。

 遠方の建築家とともにつくることはたくさんの手間やエネルギーが要ります。しかし、そのプロセスを重荷ととらえず、心から楽しもうとする建て主の姿は、創作エネルギーの塊となって、遠くに居る建築家の心に確かに届いています。

 もはや、建築家にとって場所はさほど大きな問題ではありません。むしろ、異なる敷地条件に合わせて地域特性を踏まえたデザインアプローチを行うことこそが設計の本質であり、普段のテリトリーから積極的に飛び出すことが求められているのです。

 つまり、幅広い地域の建て主の熱意や行動力に出合うことが、ボーダーレスに活動を行う現代建築家の総合力向上には不可欠な要素であり、わたしたちは常日ごろ、いかなる場所でもデザインで対応できるように準備を整えておかなくてはなりません。

仙台に建つ住宅。斜めにせり上がるファサードルーバーによる光のリフレクションの効果で、室内は十分な明るさを確保できる(写真:西川公朗)

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