TOPLiving Style路地裏の極上住宅

優れた住宅をつくろうとするとき、その原動力になるのは、建て主が見せる強い意欲とパワーであり、建築家が示す熱いスピリットとアイデアである。東京において、極上住宅は路地裏に生まれ、育ち、鍛えられてきた。これは、路地裏で身を粉にしてきた建築家が、活動の舞台を表通りにまで広げ、さらなる極上住宅をつくろうとする物語である。

極上の空間 ~サードプレース化する住空間~

これからの住空間に求められるもの

 これまではデザインにまつわるマネジメントの重要性に関してお話しして参りました。第3章では、必要不可欠なマネジメントにより生み出された極上住宅の空間術についてお話ししていきたいと思います。

 2000年以降、建築家として80棟ほどの住宅設計に携わってきましたが、その間、社会の状況はめまぐるしく変化を繰り返し、決して平坦ではありませんでした。世界的な人口減少や格差社会化が始まり、耐震偽装問題、米国や欧州の経済危機、国内政治の混迷などの影響が次々に襲いかかる中、昨年は東日本大震災や原発事故という大打撃を受けてしまいました。

 バブル崩壊後の1990年代前半以降の20年間は、その後訪れる長期低成長時代を如何に乗り切るかということを覚悟する期間であったといえるでしょう。もちろん、現在は周囲を見渡しても浮かれている人は皆無で、目の前の生活を直視し、等身大の自分自身と向き合いながら日々の局地戦を闘う人が増えました。

普遍的なデザインは、社会の状況に左右されることなく、存在し続ける(写真:西川公朗)

 そのような厳しい現実の中で、住宅に対する役割や期待も劇的に変化を遂げています。身の丈の都市生活を楽しめる狭小住宅や生活者に合わせて自由にカスタマイズできるリノベーションは、限られたリソースの中で暮らしを最大限に楽しむ方法論として至極まっとうなものでした。

 少子高齢化に伴う人口減少は、住宅を構成してきた「家族」というマジックワードをいつしか死語へと追いやりました。人々は新たなコミュニティーを求め始め、シェアハウスなどの次世代生活様式を無意識かつ淡々と模索し始めています。

 飽和状態の世界がやむなく縮小へと移行する中で、いかなる時代にも基本となる住宅への期待はむしろ膨らんでいます。とりわけオーダーメード住宅を建築家に依頼して新築したいと願う人々は、これまでの生活慣習に縛られず、自由な発想を駆使しながら生活基盤を整えようと必死になっています。

1980年代に建てられた建築家住宅のフルリノベーション。時代とともに住宅も変化し、成長していく(写真:西川公朗)

水まわりを共用している店舗併用住宅。各々のエリアを明確に区分しないことで共存を成立させている(写真:西川公朗)

 「nLDK」に象徴される部屋数や物理的な広さが基準ではなく、職場と生活の中間に位置するサードプレース(第三の居場所)のような概念やライフステージに合わせて変換可能なフレキシブルな中間領域づくりを無意識のうちに求め始めているのです。

 それはまさしく、一寸先が闇となった現代社会における最大のリスクヘッジであり、最大のチャレンジにほかなりません。日本人は将来をあきらめていないどころか、日々の生活を丁寧に整えることが成長へとつながることを頭ではなく感覚で理解しているのです。

住宅は単なる個室の集合体ではなく、家族の変化に対応できるおおらかな空間でなくてはならない(写真:西川公朗)

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