TOPLiving Style路地裏の極上住宅

極上の空間 ~サードプレース化する住空間~

空間における「極上」とは何か

 「サードプレース」の概念は都市や地域を問わず成立するものです。日本人が昔から親しんできた中間領域に近い考え方であることから、現代のオーダーメード住宅にも、生活者自らカスタマイズし、容易に展開できるようになりました。パブリックとプライベートを両立でき、リアルとバーチャルの空間を横断することも可能です。

 一方で、かつての「茶の間」は一つの空間にすべての空間を内包させることで成立していました。多様性を成立させていた要因としては、人々のコミュニケーションスキルとマナーの存在が大きかったのではないでしょうか。

 来客があればあいさつを交わし、勉強していた子どもは邪魔にならないようすっと端に寄り、聞いてはいけない話には自ら耳をふさぐというような一連のマナーを、極小空間の中で知らず知らずのうちに経験することで体得し、社会性を身に付けていたわけです。

公私の境目にある動線空間にスタディーコーナーを設けることで、空間を有効利用するだけでなく、公私の距離感を自然に学べる(写真:西川公朗)

 また、寝る時間になればちゃぶ台をたたみ、布団を敷き、電気を消して一斉に寝る、という規則的な生活習慣こそが、物理的に限られた空間であらゆる生活に適応できる可能性を生み出していました。これらは明らかに島国である日本特有の文化であるといえるでしょう。

 一方で、成熟社会を迎え、人々が個人主義へと移行する中で、子どものころから個室を与えられた人々はプライバシーの確保が当たり前になりました。それと同時に「茶の間」という空間に存在したルールやマナーもまたたく間に消滅し、人々は察することに鈍感になりました。

 自由な個室は快適でしたが、それを手に入れる代償としてコミュニケーションスキルを失ったことを痛感し、反省する中で、人々は自然と、かつてのようなコミュニケーション力を欲し始めているのかもしれません。

 とりわけ人とのつながりを欲し始めていることを確信したのは、東日本大震災の時でした。災害のために多くの人々が孤立しましたが、ソーシャルメディアなどに助けられた人も少なくないと聞きます。現代を生き抜くためには、人々が変化を許容し、新たな契(ちぎ)りを結び直すことから始めなくてはならないでしょう。

部屋と機能を一対にすることなく、フレキシブルに対応できる空間構成にしておくこと。それが、現代人の新しい空間志向である(写真:西川公朗)

部屋の概念や時間と住空間の関係性を見直すことで、限られたスペースでも豊かな生活を実現することができる(写真:西川公朗)

 連載のテーマである住宅の「極上感」というものがサードプレース化する現代の住空間の中にも数多く見受けられます。それはかつてのように、ゴージャスな雰囲気を指す言葉ではありません。むしろその反対です。基本的でシンプルなことこそがこのうえない贅沢(ぜいたく)であることにようやく気がつき、その素晴らしさを自由に選択できる時代へ進化を果たしたということです。

 最も大切なことは何か。それは、かつてすべての日本人がわきまえていた集団生活における心地良い規則やマナーであり、全員で力を合わせたり、危機を乗り越えたりする心です。その心が宿る場こそが「極上の空間」であり、今回の大震災の被災地でも頻繁にメディアで紹介されていました。

 日本人は「極上の空間」を忘れてはいません。むしろ失われた20年間に試行錯誤を繰り返す中で、生活者の心中にはその輪郭が浮かび上がっているはずです。

 建築家にはこれから、それらのエッセンスを丁寧にすくい取り、さりげなく空間へ落とし込むことが求められるでしょう。住宅が供給過多でストックが余る現代において、家をあえて新しくつくり上げる意味が、そこにはあるのです。

人、場所、条件など様々な変数が存在し、シチュエーションによりその都度答えが変わり続けるのが住宅デザインの面白さである(写真:西川公朗)

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