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スローライフの住宅術 BackNumber
文/藤田昌弘
スローライフとは自然に、素直に、のんびりと暮らすこと。こんな生活は大都会では無理かもしれませんが、地方の都市でなら可能です。浜松市の建築家、藤田昌弘さんが「生活と住宅、自然と住宅、職人と住宅」をテーマに、長年実践してきた「スローライフの住宅術」をのぞいてみましょう。
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家づくりは「人づくり、街づくり」

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我が家を建てるぞ

 資金がないからこれしかできなかったとか、常に次に最高の物をつくるために、その通過点でしかない自邸はつくらない、という建築家はおかしい。

 30歳までには独立して家を建てよう、郊外にあるごく普通の住宅地に私たちらしい家を建てて、ごく普通の暮らしをしよう。自邸を建てることは、実家のあるごく普通の地方都市に移り住んだ時からの、私たち夫婦の夢でした。

 本当に若かったなあと思います。

 そこで私たちの暮らしを見てもらい、「家」と「人」の関係がいかに大切なことかが分かってもらうことができたらいい。住環境研究所という事務所の名前は日々の暮らしの中から学びたいという思いからつけました。「人が主の環境を考える」という意味なのです。

 どうせつくるなら本物がいい。木造の建築は上棟後、構造材をむき出しのまま建っている姿が一番美しい。コンクリートやコンクリートブロックも、素地のままが一番美しい。どうせなら欲張って、木の打ち放しとコンクリートの打ち放しのハーモニーができたらいい。

 「木」は生まれも育ちも分かっている木を使いたい。地産地消の材料で次代に受け継がれる家にしたい。家族みんなで家に使われる立ち木を見に行って、その木の最後を見届けたい。生きてきた70~80年を見届けることで、これから、その生きてきた分以上を家の構造材として生きてほしい、と願いたい。

 新しい時が一番きれいに見えて、年月とともに汚くなる素材は使わない。人が使えば使うほど古びて味わいが出る、そんな建築に住みたい。

 私たちが家庭を築くために最初にやったことは、前にも紹介したように、まず座り心地の良いいすを買うことでした。いすを買った後は、それに似合うテーブルを買って、またそれに似合う本物の食器を買っていきました。

 すぐに壊れたりあきたりしてしまうような偽物は買わずに、ゆっくりじっくり時間をかけて考えて、必要な本物だけを買い足していったのです。それらのほとんどの物が今でも使っている物ばかりです。

 家を建てることを意識して最初に手に入れたのは、ドイツ製のアイアンランプでした。街角にあった欧風家具の店でたまたま見つけたのでしょう。気に入ったので今すぐに一緒に見に行ってほしい、と妻にせがまれました。このころには既に、ふたりで気に入った物だけを買うことが暗黙の了解になっていたのです。

 私も一目見て気に入りました。価格は12万円。店のオーナーに頼んで品物は店の倉庫に保管してもらい、毎月1万円ずつ支払って、1年後にはそれを手に入れることができました。これが、家づくりの始まりでした。

 この壁に付けるランプをどこに置くかを考えることからプランニングしていきました。玄関にいても、台所や食堂にいても、居間にいても、2階にいても、家のどこからでも見ることができる位置にある我が家のあるじは、24時間ほのかな光を放って、毎日我が家を見守っています。

 
竣工後3年たってから外構と植栽の工事を行い完成した。中部建築賞、静岡県住まいの文化賞最優秀県知事賞、第8回浜松市都市景観賞を受賞した

「木」は生まれも育ちも分かっている木を使いたい。家族みんなで家に使われる立ち木を見に行って、これから、その生きてきた分以上を家の構造材として生きてほしい、と願いたかった

どうせつくるなら本物がいい。木造の建築は上棟後、構造材をむき出しのまま建っている姿が一番美しい。模型は、今は亡き私の父が完成させた。事務所棟はこの後、コンクリートブロック造に変更されていく

家づくりの基になったアイアンランプ。当時は国内の照明メーカーで輸入していなかった。輸入雑貨店に毎月1万円ずつ支払い続けて1年後に手に入れることができた

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