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スローライフの住宅術 BackNumber
文/藤田昌弘
スローライフとは自然に、素直に、のんびりと暮らすこと。こんな生活は大都会では無理かもしれませんが、地方の都市でなら可能です。浜松市の建築家、藤田昌弘さんが「生活と住宅、自然と住宅、職人と住宅」をテーマに、長年実践してきた「スローライフの住宅術」をのぞいてみましょう。
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コの字が決め手

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コートハウスに恋した

 「家族4人の家を40坪くらいの広さで、設計料を含めて2000万円の予算でつくりたいのですが」という建て主さんの要望に応えることができなくて、どうしたものか、と思案していました。そんな時に、知り合いの若いIさん夫婦が「1500万円でできませんか」と、事務所を訪ねてきました。

 これだけ予算が厳しいと逆に、その金額でできる方法を考えてみよう、と事務所のいつもの仕様を見直すことになります。

 まずは面積です。家族4人で本当に40坪も必要なのだろうか、と家族4人が暮らしていくのに必要最小限の空間を考えていきました。

 ローコスト住宅といえば、1階の上に1階と同じ面積の2階が載った総2階建ての家が一般的です。一つには、同じ面積であれば1階の床下にあるコンクリート基礎と屋根の面積が平屋建てに比べて半分になるというメリットがあります。もう一つは、できる限り立方体に近い形の方が外壁の面積が少なくて済むという理由からです。

 面積が少ない計画であればあるほど、平面計画の中で廊下や階段の面積の割合が大きく目立ってきます。廊下はなくすにしても、2階建ての建物で階段をなくすわけにはいきません。

 今回は奥様の一目ぼれが大きな解決の糸口となりました。

 Iさんの奥様は我が家のアプローチ越しに事務所と自宅で囲まれた中庭を見るや否や、中庭のあるコートハウスの暮らしを夢見てしまったのです。中庭を挟んで自分の家が見えるというぜいたくは決して総2階建ての家では味わえない、体感しなければ得ることのできない醍醐味(だいごみ)です。

 ましてや、中庭の内外を結ぶデッキの上を子どもたちが走り回る光景を想像すれば、多少そのことでコストが掛かり実質の床面積が削られようと、目に見えない価値にお金をかけてみたくなるものです。

 この計画の敷地の広さは幸いにもそこそこあったので、となれば思い切って平屋建てで考えてみようということになりました。そこで提案したのが、寝室などのプライベートな空間の箱と居間などのパブリックな空間の箱を離して並べて、納戸兼廊下で二つの箱をつなぎ、その間に中庭をつくるという「コの字型」案でした。

 設計料を含めた工事費の予定金額が決まっていてそれに計画を合わせるしかないのであれば、まず考えるのは、平面計画を小さな床面積として高さも抑えることです。この家では、23坪の床面積のほかにロフトを考えたのが、最初の提案でした。

 今回は現実にはかなり厳しい予算だったので、予算に合わせて工法から仕様まですべて設計者側から提案して、ある程度の実施図面を描いた段階で実際に取れる見積もりは取っていき、設計を予算に合わせる方法をとりました。

 結果として予算通りに収まりましたが、この方法がとれるのもCMという考え方の中で分離発注(第4回「サイフ公開の家づくり」)の方法を選択することができたからなのです。
Iさんの奥様が一目ぼれされた我が家の中庭。ファイバーグレーチングを敷いてデッキ代わりにしている(*)

中庭の内外を結ぶデッキの上を子どもたちが走り回る光景を想像すれば、目に見えない価値にお金をかけてみたくなるもの

子ども部屋側からデッキを見る。中庭にはデッキをくり抜いて株立ちのトネリコの木を1本植えた

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