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スローライフの住宅術 BackNumber
文/藤田昌弘
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家づくりは「人づくり、街づくり」

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朝向きの家

 山林の土地が区画整理で住宅地に造成され始めたまでは計画通りだったのですが、古墳が出てしまい、その調査のために区画整理の完成が予定よりも8年遅れてしまいました。

 家が完成した時には、娘は小学校3年生になり、息子も1年生なっていました。おかげさまで、子どもたちと一緒に家づくりを楽しむことができました。

 彼らが玄関やポーチの床に左官職人の水野さんと一緒に埋め込んだ五色石は、今では所々抜け落ちていますが、いい思い出になりました。

 思い出といえば、外部塗装を一手に引き受けてくれたのは父でした。父が参加型家づくりの意義や楽しさを教えてくれたのです。今年の初めに他界したその父をこの家から送り出すことができたのも、本当にありがたいことでした。

 この家は真っすぐ東西に延びた道の突き当たりにあります。朝日をいっぱいに浴びながら、この家の一日が始まります。

 家の真ん中には1階と2階を結ぶ大きな吹き抜けと階段があります。それを囲むように人を迎える所、料理を作る所、食べる所、くつろぐ所、収納する所、身支度する所、2階には子供の間、眠りの間が視覚的には仕切りのない一室になるように配置されているので、家族の動きがよく見えて、声をかける機会も増えます。

 仕切りのない家は会話が回ると空気も回り、生活動線も回ります。空気が回るということは音も聞こえます。戸を開ける音、「ただいま」の声、靴を脱ぐ音、階段を上がる音、かばんを決められた場所に置いたかどうかまで、台所にいる母親には分かります。

 そんなに回るならと、冬は太陽熱で暖めた空気を回したら、北側廊下も、吹き抜けの上も下も、一定な適温になるし、夏は自然の風がどこからか入り込むし、エアコンいらずの健康的な家になりました。

 生活動線が回り、その動線上に収納スペ-スを設ければ、何かやりながら、動きながらの片付けができて、無駄な動きがなくなります。行き止まりの家ではなく、ぐるぐる回ることができる家は片付け上手になりますし、実際よりも広く感じることができて、精神的にも健康です。

 仕切りのない家の仕上げには天然素材にもこだわります。無農薬の有機野菜にはこだわるのに、住宅に使われる材料にはなぜ無関心だったのでしょうか。

 15年前はまだ仕上げの主流はビニールクロス等の新建材で、湿気の多い日本では結露が生じやすくカビの温床となり、健康をむしばんでいました。家族の健康を考えて農薬が含まれるシロアリ駆除剤はもとより、塗料や接着剤もできる限り使わないことを心掛けました。

 床、柱、梁(はり)は地元のスギの無塗装品なので、乱暴に扱うとすぐにキズが付きました。でも考えようで、物を大切にする心が身に付いたように思います。はだしで歩く心地良い感触を味わうための日々の手入れは大変ですが、水ぶきした後のすがすがしさが「住まい」を心が宿った器に変えます。

 仕切りのない家には、あちらこちらに冒険があって発見があって驚きがありました。親も子もなく、いろいろな所で学び教え合って、一つ屋根の下で暮らし始めたのです。

 
竣工時の中庭は砂利を敷いたままだった。その後、大きなトネリコの木を植えて、デッキとしてFRPグレーチングを敷き詰めて、デンマークの木製ベンチを置いた

仕切りのない家は会話も回ると空気も回り、生活動線も回る。戸を開ける音、「ただいま」の声、靴を脱ぐ音、階段を上がる音、かばんを決められた場所に置いたかどうかまで、台所にいる母親には分かる

家が完成した時には、娘は小学校3年生、息子も1年生になっていた。着工が遅れたおかげで、子どもたちと一緒に家づくりを楽しむことができた

子どもたちが玄関やポーチの床に左官職人の水野さんと一緒に埋め込んだ五色石は、今では所々抜け落ちているが、いい思い出になっている

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