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うちの施主のおかしな注文
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プロフィール 実作品 国際設計競技案
京都で「おかしな人やんな」と言われたら、「面白い人ですね」「変わった人ですね」のいずれかを意味する。これは、「施主のおかしな注文」をエネルギー源にして活躍する新進建築家、中村安奈と神野太陽(イースタン建築設計事務所)の住宅設計物語である。
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要塞の窓から
出口

 私は30代。建設関係の会社に勤めている。私はイースタンのつくったマンションの一室に住み始めた。

 これまでは、安い、便利という理由で、自分の部屋を選んできたけれど、今度、初めて、気に入った建築に住んでみようと思った。そこで考えた。

 私が好きな建築って、また、家とは、一体何なんだろうと。

 これは、変わった窓を愛した、変わった私の話。要塞の窓に恋した女の物語。


要塞の窓から、カリブ海を望む。自由を望む。ハバナ湾の運河にある(*)

 この写真は、キューバのハバナ湾にある、要塞の窓。窓と言えるかも怪しい。通気孔かもしれない。見張孔かもしれない。

 この窓のなにがいいか、それを言うと、

 海が見える。
 手前が闇で、向こうが明るい。
 形の象徴性がいい。
 内から外を眺めるときに自由がある。
 エメラルドグリーンの海。
 やはり窓が出口だ。
 女は出口を求めている。

 これを、私自身の自己紹介の代わりとします。昔の恋人に言われた、ぼくがきみの入り口になってあげる、全然違う。心惹かれる眼前の世界は、出口であるべきだ。女はそれを求めている。

これは日本。これは総合医療ビル。建築のなかに道をつくっている。町の人々が自由にこの道を通る。「東陽オアシス能登川」

 窓は出口感がある。青の不変の自由の色が。

 大体、昔の物語の多くで、女は、塔や城のなかに囚われの身で、こう言う。
 「なぜ、あなたはその腕に
  わたしを抱き上げて、
  この淋しい土地から連れ出してくれないのか」

 男は言う。
 「わたしは故郷を去って出て行こう。
  大きな船で。
  美しい小さな女のために。
  私は真珠を手に入れよう…」

 上は、「もう1つの国」という書物のエピグラフ(序)に書いてあったコンラッドの文。下はエスキモーの詩。昔から女は出口を求めた。男は女を救い出した。

 2つの文の、暗誦できる力強さ、そこでは、“出てゆく”ということは、逃げるということではないんだ。


内庭に面した楕円の窓。この建築は最近竣工したばかり。未発表

 “出口”が意味するのは、強く自分を踏み出て、進むということ。私を押さえつけるものより、ずっと伸び上がってゆく希望の広がりということ。だれもが似ているなどと言う鎖を、断ち切るということ。明日を求めるために、今日を振り払うということ。理屈を抜け出し、理由がないから美しいものへ向かうということ。

 そこへ向かうための裂け目を開ける。その光に近づくこと。

 古代のギリシャ人は、棺桶にも小さな窓をつくったという。魂が出て行けるように。
 私たちの住む東洋では、「明」という字が、窓に月光が差すところを表すという。神は、光をうける場所に来る。そしてまた、出ていく。私たちは闇に訪れる月明を祀る。

未発表の建築からもう1カット。筒状の内庭。高さ15メートル。曲線の窓がうねりながらのびあがっている。内庭から見上げると、空の青は特別だ

 都市のなかに生きる私の窓は、どうあったらいいか。私は考えている。

 私が好きなもの。幽閉された者がいる塔の窓から、月下の城を出て行く男が独り降りる通気孔。水先案内などいらない、独自の海図にのって進む海賊の窓。東方の聖者が光の洗浄をうけている洞窟の切れ目。薄暗い街角でこどもたちが夢見るトンネルの向こうへ出たときの光。人間の運命を見張る見張塔の開口。酷使された農民が夜の草原へ旅立つ納屋の小窓。
 窓の彼方に、私が行くところがあると思う人たち。

 私の窓、それは窓辺に花を飾るというものではない。窓は超自然。飾るものなんていらない。それは、私を貫く。

 私は、日の光に貫かれたい!






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